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こちらは、井上陽水さんの、「傘がない」からインスピレーションが沸いた作品となります。
天気予報もはずれたらはずれたで文句言われるし、気象予報士さんも大変ですよね。

それでは「傘がない」





「まいったなぁ・・・」

家から最寄の駅に降り立つと、あたりは厚い雲に覆われ、土砂降りとなっていた。
昨夜見た天気予報では、ブラウンのスーツに同系色のナロータイを決めた若いお兄さんが、このあたりは一日晴れだといっていたにも関らずだ。
今朝、天気予報を確認しなかったことが悔やまれる。

心の中でお天気お兄さんに軽く悪態を付いてから、どうしたものかと考える。

自宅までは徒歩で10分ほど。
多少なりの雨ならば濡れていくのも我慢できるが、今振っている雨はそんな生易しいものではない。
これでは家に付く頃には、服を着たままプールに飛び込んだかのような状況になってしまうだろう。

かといって、フェイトちゃんに迎えを頼むのも・・・。
この時間は彼女は夕飯を作っているはずだ。
出来れば余計な手間は掛けさせたくない。


「駅のコンビニでビニール傘買ってくしかないか」

しぶしぶコンビニに向かうと、どこかで聞いたことのあるような曲が聞こえてくる。

『・・・――ども問題は 今日の雨 傘がない』

あぁ、と直ぐに思い当たる。非常に有名な歌だ。

全く、今の私にぴったりな歌だなと思う。

『行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ 君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ』

メロディは、情熱・切迫を感じさせるというよりは、哀愁・切なさを感じさせるものだ。
雨が降っている街というイメージに非常にマッチしいる。
雨というのは、普段賑わう街の温度を気温的な意味でも、比喩的な意味でも下げるものだ。

駅前で良く見るストリートミュージシャンもいない。
ポケットティッシュ配りのお姉さんもいない。
ガールフレンドと待ち合わせている茶髪の男の子もいない。
どこかドレッシーな印象を受けるどこぞの婦人もいない。

ただ、どこかひどく業務的な顔をして傘をさし、矢継ぎ早に改札から出入りする多くのビジネスマンだけが目に入る。
時間に追われているのか、仕事に追われているのか、世間に追われているのか。
時間を追っているのか、仕事を追っているのか、世間を追っているのか。

魔法と出会わなかったら、ただそういうことに追われて、あるいは追っていた高町なのはも居たのかもしれない。
そんな人生ももちろん悪くないだろう。
男性と恋をして、子供を授かって幸せに暮らすことも立派だと思う。
両親だって尊敬してる。

だけど。
だけれども、だ。
やっぱり、フェイトちゃんと出会った、この人生に勝るとは思えない。
血はつながっていないが、仲の良い娘もいる。
頼れる親友も、逆に私を頼ってくれる後輩もいる。

死ぬときに、幸せだったといえるだけの人生を送れたのか。
生きるということがどういうことなのか、それを語れるだけの人生であったのか。

『冷たい雨が 今日は心に浸みる』

冷たい雨が、今日は心に浸みる。

『君のこと以外は 考えられなくなる』

「『それは、良いことだろ?』・・・ってね」

入りかけたコンビニに背を向けて、雨の降る街中に歩みを進める。
相変わらず空は大泣き。
眠りを妨げられた赤ん坊のようにぐずる。

大粒の雨は、着ている服を瞬く間にぬらし、普段はあまり感じることのない、衣服の重さを感じさせる。
サイドアップに纏めた髪を解くと、前髪が顔に張り付く。


と、前から慌てたように走りよる人影。

「なのは、どうしたの?こんな中歩いてたら風邪引いちゃうよ?」

心配するように彼女がいうが、その顔にはむしろ困惑の色が見て取れた。
恐らく雨の中を傘も差さずに歩くという私の行動が理解できなかったのだろう。

「そろそろ駅に着く時間だろうなと思って。傘、持ってないんでしょう?」

その問いかけに、私は曖昧に頷く。
どことなく元気のない私に気付かない彼女ではない。
しかし優しい彼女は深くは踏み込んでこない。

「大丈夫?どうしたの?」

・・・。

「君のこと以外は、考えられなくなる」

棒読みに、語りかけるように私がそういうと、彼女の顔に驚きが浮かんだ後、若干の赤みが挿した。
どうやら、彼女はこの歌を知らないようだ。

「あの、えと、その・・・」

視線を上へ下へ、右へ左へと泳がせながら、返事に困るフェイトちゃんが可笑しくて、思わず口元が緩む。

「あー!今なのは笑ったでしょ!」

頬を膨らませながら言うのも、子供っぽくて可愛らしい。
なんでこの子はこんなに可愛いんだ。

「え、わ、笑ってないよ?」

膨らました頬を私が指で突くと、彼女の口から空気が漏れる。なんとも間の抜けた音。
もしかすると、彼女は、どこか感傷に浸っていた私を持ち上げるために遣わされたのかもしれないな。
誰に・・・って、まぁ、神様とか?

それにしても。
今日は冷えた。

これは、今晩フェイトちゃんで温まるしかない。
いや、むしろ温まるのはフェイトちゃんかもだけど。

「・・・あの、お手柔らかにお願いします」

じっとフェイトちゃんを見ていた私の瞳から何かを感じ取ったのか。
あるいは、なんとなく予想をつけていたのか。
いやー、お手柔らかにといわれても。
フェイトちゃんが可愛いのがいけないわけで。
今日こうして、私を冷え切らした雨がいけないわけで。

おまけに明日は休みで、早起きする必要がないわけで。

・・・私の煩悩もちょっといけないけど。でも1cmくらい。ちょっとだけね。ちょっとだけ。


家までの残りわずかな距離を、私が傘をたたんでひとつの傘で。

今日の夕飯のメニューだとか、今日の出来事だとか。
他愛もないことを話して帰る。

冷たい雨は、もう私の心には浸みない。
大切な人が、私に傘をかけているからだ。

家に入る前、愛してると先に言ったのは、私だったか。それとも彼女だったか。
湧き上がったその疑問を打ち消すのは、玄関を開けたとたんに聞こえてくる『遅い』という娘の声であった。

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2013.04.29 / Top↑
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