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その場しのぎその2

こっちのSSはパラレルな内容にしようかな。と思います。
まぁ、前々から草案だけあったやつを投稿するだけなんですがw


内容としては、なのはさんがジャズバーのマスター(女性)、フェイトさんがお客さん。
なのはさんがフェイトさんよりちょっと年上。

フェイトさんをマスターにしようとも思ったんですけど、なんとなくこっちのほうがなのフェイっぽいのでw

それでは、「街角のジャズバー」





・・・からんころん。

「おっと、失敬」

お店のドアにつけられた、鈴とも風鈴ともつかない小型のインテリアがドアの開閉に従って音を鳴らす。

たった今、会計を済ませた男性と、外からきた女性がぶつかりそうになる。
男性は失敬と言葉を発して、女性はやや深めに会釈すると、お互いにそれっきりでドアを閉める。


入ってきたのは、きれいな金髪を後ろでまとめた、背の高めの女性。

「フェイトちゃん。いらっしゃい」


「なのはさん、こんばんは」

時刻は19時。こんにちはというには、確かに少し遅いだろう。

フェイトちゃんはカウンター席の右端から2つ目に腰掛ける。
彼女の指定席だ。

指定席などというと、他のお客様に比べてあたかも贔屓しているように聞こえるかもしれないが、現在このバーにカウンター席は6席。
その内4席は、フェイトちゃんも含めてほぼ常連さんが座る指定席になっている。
もちろん、必ずそうというわけではなく、例えば5人で入ってきたお客様がカウンターを所望されれば、カウンターに座っていただく。
あくまでも、慣例程度のものだ。


「いつもの、お願いします」

フェイトちゃんから注文が入る。
彼女にしては珍しく、3分ほどリストを見て迷っていたようだが、結局は変化を好まずいつもどおりにしたようだ。

彼女がいう『いつもの』とはジントニック、ライムジュース大目、という意味だ。

ジントニックのレシピはそれほど難しいものではない。
が、であるこそ店の基本的なレベルが如実に現れる、という話はちょっとカクテルに詳しい方の間では通説になりつつある。

何年も作る側をやっている身としては、ジントニックを注文する人の顔をみれば、なんとなくその思惑を読み取ることが出来る。

つまり
本当にジントニックが飲みたいのか、それとも、私の腕を計ろうとしているのか、だ。

初めてきたフェイトちゃんの顔から感じたのは後者だった。
口元に若干の含み笑いをもって、ジントニックを注文してきた。
まだ若そうに見えるわりに、なんとも気概のありそうな女性だと思ったものだ。

もっとも、私としてもカクテルには自信があるし、いつも通りに作ってお出しする。

そして、その結果彼女には及第点を頂いたようで、今に至る、というわけだ。


店に流れているオンボーカルのジャズが、時間を漂わせる。
いろんな方に親しみをもってもらえるように、曲はどちからといえば有名どころを流すことにしている。

そのおかげかはわからないが、男性にも女性にも店の受けは良く、年代も若い方から初老程度の方まで贔屓にして貰っている。

とはいうものの、日曜日で尚且つ外が雨ということもあり、今の時間はお客さんは彼女一人だ。


「なのはさんって、カッコいいよね」

フェイトちゃんは、私のことを なのはさん と名前で呼ぶ。
私のことを名前で呼ぶ人は常連の中でもかなり限られる。

こういったお店では常連にまでなっても、お互いの名前を存じないなんてことはざらにあることだ。

名前を知らないくらいの距離感があったほうが互いにやりやすいからだと思う。

だから大体は皆私のことを「マスター」とか「マスターさん」とか大体はそんな風に呼ぶ。



「フェイトちゃんに言われるとね~。もしかして嫌味で言ってるの?」


私がそう尋ねると、彼女は、まさかと首を振る。

一度、グラスに目を落とす。
これは、彼女が私に何か尋ねたいときにする癖だった。

「なのはさんって、好きな人とかいるの?」

なるほど、聞きたかったのはソレか。

お客さんの悩みなら相談にのるのもマスターの勤めであります。はい。


「いると思う?」

前のお客さんのために取り出したウオツカをしまい忘れていることを思い出し、それをしまいながら彼女に問い返す。

彼女は質問に質問が帰ってくるとは思っていなかったのか、いくらか戸惑っている様に見える。

「ねぇ、真剣に聞きたいんだけど、もしも今日、私が恋人に振られちゃって、その失恋のショックを携えてここにきた。って言ったら、信じてくれる?」

彼女が持ち合わせる真紅の瞳には、いつもにない光が宿り、鈍く照明の明かりに瞬く。

本当なら、上手い返しを考える必要のあることだが、恐らく、私と彼女の間柄ならその必要もないだろう。
それに恐らく、彼女も私が信じないなら信じないならそれで良いはずだ。

「フェイトちゃんには悪いけれど、ちょっと信じられないかな」

すると、やはり彼女は「ふぅん」くらいのリアクションの後、一体何故かと聞く。

ソレを受けて、ゆっくりと説明する。

私が、フェイトちゃんが既婚であった、あるいは恋人がいる、そうは思わない理由。

1つ目は、彼女が来店する日にちや時間に規則性が見られないということだ。
既婚している人は、どうしても家庭のリズムというのが生じてくる。
そして、「余裕の出来る時間」というのはほぼそのリズムの中で同一に形成される。
そのため、店に来店することに規則性が出来やすい。
例えば、毎週月曜日の夕方だとか。
あるいは、金曜日の深夜だとか。
つまり、来店時間に規則性がないというのは恐らく結婚していないのではないか、ということ。


2つ目は、ジントニック以外のカクテルを注文したことがないということ。
恋人がいる人。
特に女性は、恋人との間で何か変化があった・・・。
喧嘩してしまっただとか、あるいはプロポーズされただとか。
そういった日には、いつもと違うカクテルを注文することが多い。
恐らくはそういった心境の変化に伴って、なんとなく気分を変えてみるのだろう。
これは、まぁ、個人差があるのだけれど。



「そして、最後の理由は、フェイトちゃんが好きだと言っていた曲」

「・・・曲?」

「そう。フェイトちゃん、いつだったか、店で流れていた曲に『この曲好きなんだ』って言ったことがあったよね」

フェイトちゃんは静かに頷く。


「Since you went away the days grow long And soon I'll hear old winter's song But I miss you most of all, my darling」

あなたが去ってから、どれだけ経ったのでしょうか。そして再び、冬が訪れ。どこかで聞いたような歌が聞こえ始める。だけれど、一番寂しいのは、ここにあなたがいないこと。愛しきあなたが。


私が出来るだけ感情を込めて歌ってみたが、彼女は何のリアクションも取らない。
単に続きの言葉を待っているようにも、歌詞の続きを思い出しているようにも見えた。

「枯葉。その中では私が一番好きな、モニカ・ルイス。これを聞いたとき、フェイトちゃんが好きだって、そう言ってた」

「・・・そうだったね」
やっとフェイトちゃんが、ポツリと口を開く。

「この曲を、恋愛真っ只中の女性が大好きっていうのは、やっぱり考えにくいかなって。それが、フェイトちゃんが今日失恋してここに来たわけじゃないんだろうな、って思う理由かな」

私は我ながらそこそこ説得力のあることが言えた様な気がして自己満足に浸る。
もちろん、顔には出ないように、だが。

「じゃあ、もっと昔に、恋人に振られたって可能性は?」

フェイトちゃんは再びリストにちらりと目をやるが、今度はそれを手に取らない。
そのまま、グラスをカウンターの奥に付ける。
これは、このお店でいつの間にか誕生したローカルルールのようなもので、『同じものをくれ』というサイン。
出来る限り声を発さず、一人の世界に入ってお酒を楽しみたい人にとっては好都合なのだろう。

私は再びジントニックを彼女に出しながら答える。


「あのね、フェイトちゃんを幸運にも捕まえられた男性が居たら、手放すわけないでしょ?」
こんなキレイな子。
と付け加えると、フェイトちゃんは持っていたグラスを落としそうになりながら、何か言い返したい感じだったけれど、返事が思いつかなかったようで、顔を俯かせる。


ここでも、彼女は何か迷うような仕草を見せる。
どちらかといえば思い切りの良い彼女にしては珍しいなと思う。

意を決したように、彼女が口を開く。

「なのはさん。私、なのはさんが好き。自分で、自分を抑えられないくらい」

思わず、手を止める。

「それは、友達として、という意味ではなくて。一人の女性として?」

「そうだよ。もちろん」

彼女は、どことなく呼吸が自然ではないように見える。
恐らくは、緊張しすぎてそんな風になっているのだろう。

私がちょっとしても返事をしないのを見て取ると、まるで待ち飽きたとでも言うように彼女の口から言の葉が漏れる。
いや、言の葉というよりは、歌だ。

ぽつり、ぽつりと呟くように発しているが、これは歌だ。


「Bésame, bésame mucho, Como si fuera esta noche la última vez.」

なるほど。べサメ・ムーチョね。
この曲は本当はスペインだかどこかのラテン系の音楽で、ジャズではない。
しかし、音楽とはこれまた面白いもので、他のジャンルに属している音楽を、自分のジャンルに引っ張ってくることが出来る。
もちろん、そのアレンジが人に好まれるかというのは、ひと悶着あるところだとは思うけれど。


べサメ・ムーチョもお店で流したことがある。
と、いうよりも今かけているアルバムに入っている。

彼女がそれを見越して歌ったのか、それはさだかではない。
べサメ・ムーチョは曲通りにいくと、明日、私とフェイトちゃんは遠く離れ離れになるはずだが、告白してきてそれはない。
恐らくは、情熱的なイメージを持つラテン系の曲で、かつジャズアレンジがあるこの曲をチョイスしてみたのではないか。あるいは、単にお気に入りの曲なのか。

私は、カウンターから出て、彼女と向かい合う。
初めて知ったけれど、フェイトちゃんのほうがちょっと背が高いんだ・・・。
会計なんかで向かい合うことは合っても、私はレジにうつむきがちだし、そもそも5センチかその程度の差なんてちょっと気にしないとわかりにくいものだ。



「キスをしてほしい。私に、たくさんキスをしてほしい」

「フェイトちゃん。自分で言うのも変なんだけど。私は結構、独占欲強いよ?」

彼女は何も答えない。

「Bésame, bésame mucho,」

彼女が歌い出したのと同時に、彼女の唇を奪う。
普通じゃつまらない。当然、大人なほう。

彼女がそう望んだのだ、問題はあるまい。

しかし、本当にしてくるとは思っていなかったようで、最初に驚き交えに抵抗されたが、直ぐに大人しくなった。
すぐ目の前の瞳が意味ありげに揺れるのを見ていると、意味もなく優越感に浸れそうな気がする。
いや、優越感というのとは、少し違うのかも。

口を離すと、フェイトちゃんはふらふらともう一度椅子に座り込んでしまった。

「ねぇ、フェイトちゃん。今晩、お店が終わったら家においでよ」

私がそう誘うと、彼女は途端に覚醒したようだった。

「あの、なのはさん。気持ち悪がったりしないの?私、女だよ?」

「じゃぁなぁに?冗談のつもりでいったの?」

「そんなわけない!・・・けど・・・」

けど・・・?
と聞き返すのも俗っぽい。

きっと彼女なりに色々と悩んでこうして今日告白してきたに違いない。

いや、しかし、やっぱり奇跡ってのはあるんだね。

私だってフェイトちゃんのことは気になってたよ。彼女と同じように、一人の女性としてね。

私のものならいいのにと思った。私の所有物であればいいのにと。

どちらかといえば感情を押し殺すことが得意な私は、すまし顔で彼女を相手にしていたけれど、そのとき彼女はどんな気持ちでいたのだろう?
もしかしたら、私から告白されないかな、なんて思っていたのかもしれない。
もしそうだったら、悪いことしちゃったな。年下の子に愛の尺を先に述べさせるなんて、これは近いうちにバチがあたるかもしれないな。


けど・・・と言ったきり、頬を赤くして、グラスを両手でもったまま物言わぬ彼女の耳元でそっとささやく。

「フェイトちゃん。今晩、家においで。でも、覚悟しておいてね?」

ちょっとやそっとでは済まさないから、と付け加えると、彼女は完全にカウンターに突っ伏してしまった。

酔いが回ったことにして誤魔化そうとしているのかもしれない。
まぁ、こんなこと言っても自分まで恥ずかしくならないのは、年上の余裕ってやつ。たぶん。きっと。



店内の曲が、私たちの時間を追うようにして、べサメ・ムーチョに変わる。

Bésame, bésame mucho, キスをして。私に、たくさんキスをして。
Como si fuera esta noche la última vez. これが、最後の夜になるかもしれないから。
Bésame, bésame mucho, キスをして。私に、たくさんキスをして。
Que tengo miedo perderte, perderte después. あなたが居なくなるのが怖い。いつか来る別れが怖い。

Quiero tenerte muy cerca, あなたを強く抱きしめて
Mirarme en tus ojos, verte junto a mí. あなたの瞳に映る私を見たい。私の傍に、あなたを感じたい。
Piensa que tal vez mañana 明日になれば、きっとあなたと離れなければならない。
Yo ya estaré lejos, muy lejos de tí. 遠く。遠く。離れることになってしまう。

Bésame, bésame mucho, キスをして。私に、たくさんキスをして。
Como si fuera esta noche la última vez. これが、最後の夜になるかもしれないから。
Bésame, bésame mucho, キスをして。私に、たくさんキスをして。
Que tengo miedo perderte, perderte después. あなたが居なくなるのが怖い。いつか来る別れが怖い。



・・・からんころん。


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