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お疲れ様です。
てぃーるーむです。

皆さんは、村上春樹さんの小説を読んだことがありますか?
海辺のカフカ、ノルウェイの森なんかが有名ですね。


今回のSSは、村上春樹風(?)のものになのはさんとフェイトさんを絡ませてみました。

・・・、はっきりいって、なのフェイである必要は全くないのですが・・・w
小説風なのでちょっと文字量も多めです。
SSである程度にはなんとか纏めたつもりなんですが。

え?はやてさんの誕生日SSですか?
いや、あげますよ!あげますけど・・・。周回遅れで・・・。


それでは「占い師」





「占い師という職業は存在しない」

高町なのはは、やけに真剣な顔で私にそう言った。
金曜日の昼下がり、周りを都会のビル郡に囲まれた、既に再開発などしようもない区画の一角に、そのカフェはあった。
私がいつものようにカフェのオープンテラスで小説・・・。
最近お気に入りのアレクサンドル・デュマを読んでいると、唐突に、高町なのはは現れた。

現れたというよりは、あたりの席が満席のため、相席を求めてきたといったほうが正しい。

彼女はブラウンのレディーススーツを着て、手にはチェック模様の日傘、髪はサイドアップに纏めていた。

彼女は席に座ると、アイスコーヒーを注文し、それにミルクと砂糖を1つづついれると、入念にスプーンでかき回している。
あるいはそれがひとつの定石である、とでもいいたそうな感じさえする。


「それ、デュマだよね」

彼女は私の本を見つめながら、人懐っこい笑顔を浮かべながらそういった。

「あんまり、デュマは貴女に合わないみたいだから、読まないほうがいいかも」

初対面の人間になんてことを言うんだと思ったが、彼女は悪びれる様子も無くコーヒーを口に運ぶ。

「占い師か何か、やってるの?あるいは、『そういった類』の職業を」

私がそう返すと。彼女はコーヒーをテーブルに戻して、冒頭。

「占い師という職業は存在しない」

「人間って、皆、誰しもが『予知能力』みたいなものを持ってるんだよ。例えば『なんだかいやな予感がする』だとか『今日は眠れなさそうだ』だとかね。もちろん人によって、その正確さは上下するけれど。私はその精度がとっても高い。とってもね。そういうのって、わかる?」

「・・・わからない」
少しの間、考えをめぐらせて見たが、いまいちよくわからない。
いや、彼女が言っている意味はわかる。
私だって嫌な予感を感じたことはあるし、それを予知能力と位置づけることも言われてみれば一応納得は出来る話だ。
もしかしたら、ノストラダムスやらなんやらも、自らの予知能力が他人よりも少し高かったのかもしれない。
私が大学の講義にでて、ノートの新しいページに細やかに教授の話を書き込んでゆくその隣で、誰かはこの講義は意味が無いと『予知』して、全くノートを取らずに寝ているかもしれない。

「あなたが、それを予知能力と呼ぼうとなんだろうと勝手だけれど、世間的には、そういう人も含めて『占い師』と呼ぶのだけれど」

「あのね、占いと予知というのは隣り合わせになっている言葉というよりも、むしろその対極として存在しているの」

高町なのはは、形のよい両手を丸いテーブルの上に組んだ。

「占いなんていうのは『こうじゃないだろうか』程度のもの。だけれど、予知というのは『こうだ』というもの感じるわけ。もちろん、予知だって必ず当たるわけじゃないけれど。普通人なら、ね。だから結局、何にも知らない人から見れば、占いは所詮占いだし、予知だって所詮占い。天気予報だって占いだし、あるいはくたびれた野球帽をかぶって、手にしわくちゃの新聞紙を持ったその辺の競馬好きのおじさんが適当に書いた競馬予想だって占いなの」

彼女はレディーススーツの襟元を若干気にしながら、一気にまくし立てた。

例えば私が今の話を全く聞いていなくて。そう。例えば頭の中でヘミングウェイの小説の一節を思い返していたり、あるいはドヴォルザークの曲の一節を頭で奏でたりしていたとしても、その間に彼女は占いと予知の違いについて語っていたに違いないのだ。

要するに、彼女は、占いというのは至極曖昧でそれも、恋愛や金銭など小範囲に限るものだが、予知というのは(予知が必ずあたる人にとってはだが)非常に正確で、そのうえ広範囲にわたるものだ、といいたいのだ。

占いと予知の違いなどこれまで真剣に考えたことも説かれたこともなかったが、彼女が言うにはどうやらそういうことらしい。

「じゃあ、例えば100%あたる占い師が居たら、それはどうなるのかな?怪しげな水晶に像が見えるだとか、あるいはもっと純粋にタロット占いだとか」

フェイトは自分が注文した飲み物が空になっていることを確認すると、幾分落胆したような表情を見せ、店員を呼ぶと、高町なのはと同じく、アイスコーヒーを注文した。
店員はひどく業務的な笑みを浮かべたまま注文を聞き、これもひどく業務的な声で注文を確認すると、メモも取らずにそのままどこかへ消えてしまった。
まぁ、今のご時勢、どこのお店の店員もこんなものだろう。
あるいは、店員が実は南極大陸からやってきたペンギンの仮の姿である。というでもなら話は別だが。

そんなことを考える私の前で、今度は髪の様子を若干気にしながら彼女が口を開いた。
「その占い師は、私たちと同じで、ただ予知能力が優れている人なんじゃないかな。ただ、それをそのまま発信したら他人に不気味がられたり、あるいは面倒ごとに巻き込まれたり。あるいはメディアに飲み込まれるかもしれない。だから、水晶だとかタロットカードだとか、そういった『媒体』を介すことで、その不自然さを打ち消しているんだと思う」


「私たち・・・?」

聞き返すべきではなかったのだ。

既に、そこに高町なのはの姿は無かった。

そう、まさしく消えてしまったのだ。線香花火の最後の灯りがポトリと地面に落ちる瞬間に瞬く、最後の光よりも短い時間で。
彼女の飲みかけのアイスコーヒーを手元に引き寄せ、覗き込むと、心境とは逆に無表情の自分がそのコーヒーに映った。
あるいはこのコーヒーがどこかの世界への入り口で彼女はこのコーヒーからどこかの世界へと抜けて行ったのかもしれない。そう、そんな風に『感じた』。

私は、今になって店員が持ってきた注文したアイスコーヒーを受け取ると、それに、彼女がしていたように、ミルクと砂糖をひとつづついれた。
それをやはり同じようにスプーンでかき回す。
見た目は、何一つ変わらない。ただのコーヒーだ。
しかし見た目というのは人を常識という檻に閉じ込めるひとつのファクターだ。

見た目で、液体になったヨーグルトと牛乳は区別できない。
見た目で、消化器外科の医師と脳外科の医師は区別できない。

コップに注がれたその白い液体を見るとき。人間はそれを何かの飲み物だと判断する。
牛乳だと判断した人にとっては、それを口にして、飲むまではそれは牛乳なのだ。
仮に、それが液体ヨーグルトであろうと、あるいは木工用ボンドであろうと。

つまり、このコーヒーもコーヒーだと思っている人間。私にとっては、飲むまではコーヒーなのだ。
私はそのアイスコーヒーに全く手をつけずに、カフェを後にした。
何故かそのコーヒーから得体の知れないものを感じ取ったからだ。
わからない。そのコーヒーは確かにカフェで作られたもので、そのカフェの店員が私の元へ持ってきただけなのに。
砂糖もミルクも店のものだ。

だがしかし、私はそのとき『これはコーヒーということにしておいたほうがよい』と感じたのだ。
そう、私が飲むまでは、そのコーヒーは、確かにコーヒーなのだから。
コーヒーは頭が切れるから何も答えない。何も返事をしない。
こういった面倒くさいことにはコーヒーは頭を突っ込まないことにしているのだ。
自らが『私、コーヒーじゃないんです』と喋ったらどうなるかということを実に良くわかっている。
もちろん、さっきの店員も、周りの客も、果てはこのテーブル、ソーサー、椅子までも。
阿呆なのは私だけだ。


カフェから出た私は、午後の講義を大学へ受けに行こうかどうしようか迷っていた。
携帯電話でメールを確認すると、親しい友人から今日の講義のことでメールが来ていた。
たいしたメールではない。ただ単に今日の講義に私も出るのかというメールだ。

私はただ一言『出ない』とだけ返すと、その日はそのまま家へ帰った。
同時に、わずかばかりの虚無感が私を襲った。
この虚無感は、駅のホームにたどり着いたのと同時に、電車が発車してしまったときの虚無感に似ている。
あの車両がゆっくり、しかし確実に加速し、私を乗客と見咎めずにホームを離れてゆく。
私を置き去りにして、定刻に。
最後尾の車両では、早朝におきだして疲れているのか、目の下にクマをつくった車掌が車両からホームの安全の確認する。
そんな虚無感。




次の日、私の足はあのカフェへ向かっていた。
昨日は金曜日、平日だということで客層はどちらかといえば時間に追われたサラリーマン、あるいは近所の主婦といった面々であったが、今日は休日ということもあり、まだ若い学生が多く見られた。
恐らくはこのカフェで待ち合わせか何かしているのだろう。
逆に言えばカレンダーを失った放浪者からすれば、カフェに学生が多いというのは休日であるというメタファーなのだ。これは一般論だ。


昨日と同じように、私はまずそのカフェのオリジナルブレンドのコーヒーを注文した。
そして、これも同じように、本を読み始める。
昨日と違うのは、この本がアレクサンドル・デュマではなくてパトリシア・コーンウェルだということだ。
デュマの本は読み終えたわけではないが、合わないからやめたほうが良い、とあの妙な説得力を持つ女性に言われてはなんとなく気がひけてしまったのだ。


私は本を読むとき、作者の気持ちを常に考える。
この作者は、一体なにを思ってこの一文を書いたのだろう?
読者に何を伝えたかったのだろう?
それははっきり行ってほとんどの場合なんの意味もないことだが、いつの間にか習慣となってしまっていた。

「アイスコーヒーひとつ」
高町なのはは、そういって又私の前に現れた。

「フェイトちゃん。デュマを読むのはやめたんだ。まぁ、私がほのめかしたんだけどね」

彼女は濃紺のレディーススーツだった。
それ以外は、昨日と同じだ。
日傘も、髪型も。むしろ、不自然に同じだった。
もしも昨日の彼女と、今の彼女を場面としてきりとって重ね合わせたら、恐らくはスーツ以外はぴったりと輪郭まで一致するのではないかと思えるほどだ。
髪を纏めるその位置も、襟元の開き具合も、そして彼女から香ってくるオーデコロンの匂いさえもだ。

そして彼女は、店員が持ってきたアイスコーヒーに、やはり砂糖とミルクを1つづついれて、スプーンでかき回した。

「私、名前を言った覚えはないんだけど」

「ああ、そうだったね。ごめんね。でも、フェイトちゃんはフェイトちゃんでしょ?」
ごめんねとは言うものの、口元は柔らかくにやけていた。

恐らく、名前というのは彼女にとっては、大した意味を持たないのだ。
地図記号程度としてしか考えていないに違いない。

「私、高町なのは。じゃあこれで、おあいこかな?」
そういって、彼女はコーヒーを飲んだ。
彼女が名乗ったのは、これがはじめてだった。

「でも、あなたにとって、名前なんてほとんど意味のないものなんでしょう?」

私がそう尋ねると、彼女にしては珍しく、驚いたような、いぶかしむような表情を浮かべた。
珍しくといっても、まだ知り合って間もないのだが。
時間というのもまた、人を取り囲む厄介な有刺鉄線の一種だ。
それが一年であろうと、理解し合えない人は理解し合えないし、10分で理解し合える人とは理解し合える。

そう、正直に言おう。
私は高町なのはに惹かれているのだ。


「私は、高町なのはに惹かれているのだ」
彼女がそう口に出すと、今度は私が驚きの表情を浮かべずには居られなかった。

「びっくりした。そんなことも出来るんだ。読心術というか。人の心を見透かすことが。透明な金庫にしまわれた宝物が外から丸見えであるように、あなたにとって人の心の金庫はその程度の役割しか果たさない」

彼女に問いかけるというよりは、私自身に説明するように話す。

「あなた、じゃなくて名前で呼んでよ」

「・・・なのは」

「さん」

「・・・なのはさんにとってはその程度の役割しか果たさない」

訂正の末に私がそう言うと、満足気な様子でこちらを眺めている。
眺めるだけ。
返事はしない。
まるで、名前と同じように、返事さえも本質的には意味のないものだ、とでも思っていそうな雰囲気だ。
名前も、人をそれぞれ個人として区別すると言う意味では、確かに記号と大差ないが、彼女が言いたいのは、そういうことも含めて、もっと別のことを伝えたいのではないか。

昨日、彼女が突然、煙のように消えたことを尋ねたところで満足な回答は得られないだろう。
これは予想ではなくて確信だ。
きっと、彼女は非常にメタフォリカルな話を持ち出して、直線的にではなく曲線的に私に理解を求めてくるだろう。
そして彼女が言いたいことを理解したところで、それは俄には信じがたいことであるに違いない。



「フェイトちゃんは、夢って見る?」

唐突に、彼女は私にそう尋ねてきた。

「夢を見る、というのは、それはつまり現実離れした目標・・・例えば、魔法使いになりたいとか、あるいは王女様になって王子様と結婚したい。とか、そういう意味ではなくて、ただ普通に寝ている時に見る夢のこと?」

「そう、その夢」

「見るよ。ほぼ毎日ね。そんなに面白い夢はみないけれど。大抵は、意味不明などうでもいいような夢ばかり。怖い夢も見れば、面白い夢も見る。ストーリー性のある夢を見ることもあれば、断片的な夢を見ることもある。空想の人物が登場することもあれば、実在の人物が登場することもある」

「じゃあ、フェイトちゃんは、夢っていうのは、ただ寝ている時に見る空想だと思う?」
彼女は、身を乗り出すようにして、私の瞳を覗き込んだ。
私の瞳から私の言葉の真偽を探ろうとしているのかもしれない。

私が返事をする前に、彼女が続けた

「フェイトちゃん。夢っていうのは、ただの空想じゃない。私たちは、その夢を見ているとき、確かにその世界に居るんだよ。一般に『睡眠』なんて風に言われているけど、あれは街の学者達が都合の良いように解釈しただけに過ぎない。人間は、一生を同じ世界で過ごすことは出来ない。その『睡眠』している間、私たちは別の世界で、普通に暮らしている」

高町なのはは、慎重に言葉を選んでいるようだった。
何も知らない子供に説明するときに、言葉を選ぶのと同じように。

「フェイトちゃんにとってはこの世界は『起きている』時の世界だけれど、私にとっては『寝ている』時の世界かもしれない。たまにテレビで報道される神隠しっていうのは、その複雑にあるいくつかの世界のどこかに挟まった状態なんだよ。世界は世界ごとに時間の流れも違う。だから、睡眠時間が長くても短い夢しかみないこともある。逆に、睡眠時間が短くても長い夢を見ることもある。神隠しって言うのは、その時間がとっても長い世界にいるだけのお話。この世界の1年が1秒の世界だってあるんだもの。その世界で1分過ごせば、この世界では60年も行方不明だったことになる」

と、彼女はありきたりなSF小説のようなことを私に説明した。
私と彼女の過ごしている世界が同じとは限らない?
夢とは空想ではなくて、その世界に確かに存在していて、睡眠とはその世界を行き来するスイッチ?

そんな馬鹿な話・・・、そう、馬鹿な話だ。

『彼女の話を信じないほうが馬鹿な話』なのだ。

彼女言うことは全て筋が通っているし、昨日彼女が唐突に消えてしまったこともなんら不思議ではない。
なぜなら、彼女はこちらの世界からあちらの世界へと移動したからだ。
すぐ隣のテーブルに座っている若い女性が、オーストラリアで寝ているカンガルー見ている夢の偶像だったとしても。
あるいは、私が『向こうの世界』に居るときは、光の届かない深海を彷徨う奇形の魚貝類であったとしても。
それは全て、事実足りうるだけの仮説で。足りないのは実証だけだ。


言い換えれば、
高町なのはは別の世界の住人で、その世界では誰しもが当然のように予知能力を備えている。そしてその状態でこの世界と行き来することが出来る。
そんな可能性さえある。
どんな世界があるかなんて誰にもわからない。
イルカが空を飛ぶ世界だってあるかもしれない。風に色のある世界だってあるかもしれない。無限にソーダ水の湧き出る泉のある世界だってあるかもしれない。

いや、かもしれないではない。

それは『存在するのだ』。



「単刀直入に聞くけれど、なのはさんはこの世界の住人じゃないんだ?」

彼女は、再びアイスコーヒーを注文した。
まだ彼女が最初に頼んだアイスコーヒーは残っているにも関らず、だ。
南極大陸からやってきたペンギンも、これには不思議な顔をしていたが、カフェからしてみれば商品が出ることは決して悪いことではない。
これもメモも取らずに、直ぐに引っ込んでいった。


「答えないと、わからないわけじゃないんでしょう?きっと、フェイトちゃんが考えたことは全てその通りだよ。全部ね。完璧に。フェイトちゃんに『そういう趣味』があって私に惹かれているのか、これは知らないけどね」

「なのはさんは、私に少しも魅力を感じない?」

「ううん、フェイトちゃんは魅力的だよ。じゅうぶん」

別に、彼女にお世辞を言う必要は無い。
本心で言ってくれているのだと思う。
それがどういう意味を持っているのであれ、あるいは持っていないのであれ。
考えれば考えるほど、私の頭は迷宮に沈み込んでいった。

やれやれ、一昨日の自分を罵倒してやりたい
おまえはこんな、ちょっと考えれば疑問に思いそうなことも疑問に思わず、何をやっているんだ、 と。

店員が、コーヒーを持ってきた。
私が店員の方に目をやって、正面に目を向けると、高町なのはは消えていた。
私にとっての現よから、ふらふらと抜け出していった。

一言くらい言い残してくれてもいいじゃないかと思うのだが、私も夢の世界で「じゃあ、私消えるね」なんて言い残した記憶は無い。
それに、自分の意思で起きるわけじゃないから、そんなことは出来ない。
いや、彼女くらいのレベルになれば出来るんじゃないかとも思うのだが、それをしないということは、それも何かワケがあるのだろう。




コーヒーに。ミルクを1つ。砂糖を1つ。

そして、良くかき回す。

何も、変わったことはない。
いつものカフェの、いつものアイスコーヒーだ。

『ちゃんと、飲んでごらん』

どこかから、そんな声が聞こえたような気がした。

それは、高町なのはの声だったのか、それとも、このコーヒーを飲んだ未来の自分が過去の自分にそう注文しているのか。

私は好奇心に後押しされる形で、そのコーヒーを口にした。


その瞬間、私は全てを悟った。
そうだ、やはり占い師という職業は存在しなかったのだ。

このコーヒーが入り口となって、私が私でなくなってゆくのを感じる。

きっと別の世界へ移動するのだ。きっと、恐らく。

次にこの世界へ帰ってくるのはいつだろう。
何秒後?何日後?何年後?
この世界で、どれだけの時間が経った後に戻ってこれるのだろう。

そして、次にいつ、彼女に会えるのだろう。
次の世界でも、彼女がひょっこりと現れてくれたらいい。
次の世界で、私がカフェでデュマを読んでいるのを咎めてくれたら良い。

揺らめくような意識のなかで、あたりを見渡す。
誰も、消えてない。誰も、私のことを気に留めていない。

それも、そうかもしれない。

私だって、このコーヒーをコーヒーだと思っているうちは。ただのアイスコーヒーだったのだ。


私の意識は、カフェのテーブルに突っ伏すようにして、静かに幕を下ろした。


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2012.06.02 / Top↑
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